研究分野紹介
四方上下の空間の広がりを表す「宇」、および往古来今・時間の流れを表す「宙」を冠する宇宙地球科学専攻では、138億年・138億光年の広大な時空間を舞台に繰り広げられる森羅万象を研究対象としています。特に、「宇宙、地球・惑星、物質、生命」の4つのキーワードを基軸に据えて、理論宇宙物理学、X線天文学、赤外線天文学、同位体地球惑星科学、地球惑星物理学、太陽系科学、ソフトマター物理学、非平衡物理学などをベースに、8つのグループを単位として日々、研究・教育活動を展開しています。
もちろん、これらの4つのキーワードは、「宇宙の中の地球」、「地球型惑星における生命」、「宇宙における物質進化」や、「惑星の極限環境における物質(物性)」のように、お互いに深く関連し合っており、各研究グループの研究内容も複数の分野にまたがったものになることは言うまでもありません。詳しくは以下をご覧ください。
研究グループ
宇宙進化学グループ(長峯研究室)
- 研究テーマ
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我々の宇宙は、138億年前にビッグバンとよばれる大爆発によって誕生しました。宇宙の膨張とともに、銀河や宇宙の大規模構造が形成され、その中で星が誕生し進化していきます。宇宙を舞台として超新星の爆発、元素の進化、ブラックホールの形成、重力波の放出、ガンマ線バーストの発生、高エネルギー宇宙線の加速等々の極限状況での物理現象が生起していきます。このような宇宙物理学・宇宙論の研究は理論・観測の両面にわたって急速に発展しており、新たな宇宙像が切り拓かれつつあります。宇宙の研究には宇宙を基礎物理学の検証の場として研究する立場と、観測事実を基礎に宇宙そのものの進化や天体現象を研究する立場の、双方からのアプローチが必要です。本グループはその双方を基軸とした理論的研究を進め、視野の広い研究者養成を行っています。具体的には、銀河や銀河団の形成と進化、ブラックホールや重力波放出などの一般相対論的宇宙物理学、ガンマ線バースト、宇宙ジェット、宇宙線加速、暗黒物質などを研究する高エネルギー宇宙物理学、大規模数値シミュレーションも用いた星・惑星や銀河の形成、など幅広いテーマの研究を行っています。
大規模な宇宙論的流体シミュレーションのなかで、ズームイン手法を用いて銀河形成の詳細を追った数値計算例。右側のフィラメント状ガス分布の中に、比較的大きな渦巻き銀河が赤方偏移z~2に誕生している様子が示されている。(Thompson & Nagamine, 2014) ガス降着を受けている原始星が、原始星フレアと呼ばれる大爆発を起こしている様子を示すシミュレーション結果 (Takasao et al. 2019)
X線天文学グループ(松本研究室)
スタッフ
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松本 浩典
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小高 裕和
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川室 太希
- 研究テーマ
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1)光学的に薄い高温プラズマの観測的研究
2)活動銀河核のX線領域での観測的研究
3)宇宙X線観測用の人工衛星搭載用CCDカメラの開発
4)X線分光、X線偏光測定技術の研究開発宇宙には、いたるところに、光学的に薄く大変温度の高いプラズマが広がっています。例えば、銀河団では電磁波で見える大部分の質量が高温ガスです。つまり高温ガスの分布は宇宙の構造であり、その起源は宇宙進化そのものです。銀河系内では、超新星爆発で作られた高温ガスが、周辺のガスと衝突して、超高エネルギー宇宙線を作っています。ブラックホールなどの周辺では、数千万度あるいは数億度のプラズマが形成され、ジェットとして粒子を加速しています。我々は、これら宇宙の高温・高エネルギー現象を観測的に研究するため、「すざく」や「ひとみ」をはじめとする日米欧の人工衛星や国際宇宙ステーションに搭載したX線CCDカメラで宇宙観測を行っています。また、将来のX線天文衛星に搭載するための、より精度の高いCCDカメラを開発しています。さらに、将来のX線光学系やX線偏光測定法の研究も進めています。
かに星雲のX線画像(NASA/CXC/SAO/J.Hester et al.提供) 新星残骸CasAのX線画像(NASA/CXC/SAO提供) (1) 薄い高温プラズマからのX線放射の分光学的観測
超新星残骸や銀河団を包む高温プラズマなど、光学的に薄い高温プラズマからの熱輻射には、重元素からの多数の輝線を含んでいる。その分光学的な研究を基に、これらプラズマの物理状態を求め、どのような元素がどのくらいどんな状態にあるかを決める。宇宙の中の物質やエネルギーの循環を追及し、宇宙の進化の様子を探る。(2) 活動銀河核の観測
活動銀河核はたいそう遠方にあるが、十分に明るいので観測できる。その中心には、発生エネルギー量や時間変動などから、巨大ブラックホールが中心に潜んでいる。またこの天体の研究は、宇宙のはるか彼方にあるので、時間を遡った宇宙初期の状態を観測的に探る。(3) X線観測衛星による観測と次期衛星の準備
2005年7月にすざく衛星が軌道に載った。搭載したCCDは正常に動作し、順調に観測を続けている。2009年7月にはスペースシャトルでMAXIが「きぼう」に取り付けられ観測を開始した。我々はいずれもX線CCDカメラ(XISおよびSSC)を担当している。実際にフライトする装置を阪大で準備した後、衛星の打ち上げに臨む。(4) 新しい検出器システムの研究開発
より優れた検出器や方法による観測は新発見をもたらす。そこで、将来の人工衛星搭載を念頭において、より優れた放射線検出器の開発を進める。この応用として、気球実験や、小型科学衛星による観測を目指す。また、これら天体観測用に開発する検出器システムの地上実験などへの応用も模索する。2005年7月に打ち上げたすざく衛星(JAXA提供)
理論物質学グループ(波多野研究室)
スタッフ
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波多野 恭弘
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湯川 諭
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青山 和司
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田之上 智宏
- 研究テーマ
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多様な物質の示す動力学・統計法則とその普遍性を研究しています。主に地球や惑星表層における様々な現象を「多体系の協同現象」という観点で捉え、統計物理学的・非線形動力学的手法を用いて研究しています。
(1) 地震・摩擦・破壊の物理:地震の時系列解析から、摩擦と破壊のダイナミクスと統計法則、摩擦の原子論、地震予知の可能性に至るまで、幅広く研究しています。
(2) さまざまな非平衡現象、特に流れや拡散・相転移なとか強く影響しあっている系における非平衡ダイナミクス。熱流やスピン流から粉体の流動まで、様々な「流れ」を非平衡統計力学の観点から解明します。
(3) フラストレーションの統計物理。特に相互作用に強い競合があるパイロクロアや3角格子系等のフラストレート磁性体の秩序化の研究。
惑星科学グループ(寺田研究室)
スタッフ
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寺田 健太郎
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山中 千博
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横田 勝一郎
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河井 洋輔
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福田 航平
- 研究テーマ
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太陽系の固体物質(地球の岩石、アポロ月試料、火星や小惑星起源の隕石など)中に含まれる元素の同位体比の精密測定、有機化合物(C、H、O、N)の化学分析、室内型の微小重力発生装置を用いた磁気実験、磁性/ESR測定等を通して、太陽系の初期形成史とその進化、ならびに惑星環境についての研究を行っています。特に、太陽系を構成する元素の起源、原始太陽系星雲内での微惑星の形成過程、原始惑星におけるコア・マントル・地殻など層構造の分化機構、星間ダストの整列現象、惑星や惑星空間の物理環境、などについての教育・研究を行っています。
(1) 隕石物質からみた太陽系初期形成史
隕石中の元素の高精度同位体分析、有機物の分子・同位体分析による太陽系の起源と進化に関する研究、太陽系を構成する元素の起源の研究 など(2) 地球型惑星の進化
地球型惑星の層構造の形成に伴う物質の分配、同位体構造とその進化、マントル物質や古大気の同位体比からみた大気・海洋の進化、有機物を分子化石とした地球の歴史と生命進化の研究 など(3) 自然界における固体粒子の磁気活性
磁石の性質を有さない一般の固体が、弱い磁場で並進、回転する現象の研究。その特性の宇宙・地球科学への応用(星間のダスト整列、新たな物質同定法の原理、微小重力・実験装置の開発)(4) 惑星環境・環境物理計測
・電子スピン共鳴と光・放射線計測による年代・線量・被熱履歴測定
・高強度レーザー大気・水環境計測〜高水圧下におけるレーザー分光
・広帯域誘電分光法による生命現象の検出
・地震前兆現象の科学〜地震電磁気現象の追究(5) 次世代に向けた新しい分析手法の開発
高感度局所年代分析法の開発。Muonビームを用いた3次元化学分析、国際宇宙ステーション宇宙塵捕獲計画に向けた地上実験、探査機搭載に向けた固体粒子の同定装置開発、など
惑星内部物質学グループ(近藤研究室)
スタッフ
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近藤 忠
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大高 理
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西 真之
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境家 達弘
- 研究テーマ
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(1)地球惑星内部の相転移と鉱物の物性変化
(2)地球深部の構造とダイナミクス
(3)地球惑星の起源と進化
(4)フラストレート系・ランダム系の相転移の研究
(5)レーザー誘起衝撃波による高圧物性研究
(6)超高圧・高温発生技術と測定技術の開発本グループでは、主に地球物理学・固体物理学を基盤として地球惑星の表層から内部に至る物質の挙動に関する実験的研究を行っています。地球惑星深部の再現手段としての各種高温高圧発生装置に各種測定法を組み合わせ、極端条件下での合成とそれらの物質の構造や物性測定の他に、純粋な物性物理学として様々な物質群の相転移現象、新規秩序相の探索と物性測定など、幅広い分野の研究を行っています。
赤外線天文学グループ(住研究室)
スタッフ
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住 貴宏
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増田 賢人
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鈴木 大介
- 研究目的
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地上望遠鏡やスペース望遠鏡を用いた赤外線観測(可視光、サブミリ波を含む)により、宇宙諸現象の研究とそのための装置開発を行っています。特に、太陽系外惑星(系外惑星)の形成過程の解明に焦点をあて、将来は太陽系外生命現象の検出を目指しています。また、重力波天体(ブラックホール、中性子星連星)の光学的同定、銀河系の構造、暗黒物質などの研究も行っています。
- 研究テーマ・内容・設備・共同研究体制
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1. MOAプロジェクト: これまでに4千個以上の系外惑星が発見されていますが、惑星形成研究で重要なスノーライン外側で地球程度の軽い惑星の発見例は少ないことが知られています。そこで私たちは重力マイクロレンズ現象を用いて、その様な系外惑星を探査しています。ニュージーランドに設置した専用の1.8m広視野望遠鏡 「MOA-II」を利用しています。名古屋大学、Auckland大学、Massey大学、 Canterbury大学、NASAとの共同研究。
2. PRIMEプロジェクト:南アフリカ共和国に新たに広視野望遠鏡を建設し、近赤外線でのマイクロレンズ惑星探査を行います。アストロバイオロジーセンター、名古屋大学、Massey大学、南アフリカ天文台、Maryland大学、JAXA、NASAとの共同研究。
3. Romanプロジェクト:2025年打ち上げ予定のNASAの口径2.4m次期大型宇宙望遠鏡Romanに参加して、スペースからのマイクロレンズ惑星探査を行います。地球軌道の外側の全ての惑星分布を明らかにし、惑星系形成過程を解明することを目指しています。JAXA、国立天文台、NASAとの共同研究。
4. 地球外生命探査プロジェクト:2030年代に提案されているNASAの超大型宇宙望遠鏡ミッション(OST, LUVOIR)に向けて、太陽系外生命探査のための検討及び技術実証を行っています。太陽系外惑星の直接撮像や食を利用した惑星の大気分光で、惑星の大気成分を測定し、生命が存在する痕跡(バイオシグネチャー)を見つけ出すのに必要な、衛星搭載用の非常に安定した装置の開発を行っています。NASAとの共同研究。
5. Kepler, TESS, Gaia, ALMA等の衛星・地上観測データを用いた系外惑星、恒星、原始惑星系円盤の研究を行っています。特に恒星と食を起こすトランジット惑星系の軌道構造を詳細に調べることを通じて、多様な惑星系の形成・進化の過程を明らかにすることを目指しています。
PRIME1.8m赤外線望遠鏡
理論鉱物物理学グループ(土屋研究室)
スタッフ
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土屋 旬
生命惑星進化学グループ(松尾研究室)
スタッフ
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松尾 太郎
- 研究テーマ
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「生命とは何でしょうか?なぜ、地球に生命は誕生したのでしょうか?宇宙には地球以外に生命を育む天体はあるのでしょうか?」こうした問いに答えるには、生命を育む天体のモデルとして「地球」を捉えながら地球と生命の40億年にわたる誕生と進化の歴史を紐解き、さらに他の惑星や衛星などの天体の進化を理解しながらそこでの生命発生の可能性を評価することが必要です。私たちのグループでは、物理学・地球科学・生物学・化学・航空宇宙工学などの多様な学問分野の研究者と協力しながら、その問いに迫っていきます。他方、宇宙における生命探査の実現には、多くの技術的課題が残されています。さまざまな国や人との交流を通して、いまだ実現していないユニークな観測技術を開発し、そのフロンティアを開拓していきます。従って当グループでは、以下の3つを研究の大きな軸としています。
(1) 宇宙生命探査:太陽系から太陽系外惑星まで
(2) 地球と生命の共進化過程
(3) 太陽系天体の形成と進化過程
(4) 宇宙生命探査や系外惑星観測に向けた機器開発
(1) 宇宙生命探査:太陽系から太陽系外惑星まで
1995年に太陽系外で初めて惑星が発見され,これまでに5000を超える惑星が発見されました.その多くは地球サイズの小さな惑星であり,中には表層に液体の水を保持する可能性のある惑星も発見されてきました.他方,太陽系では太古の火星において液体の水が発見され,さらに木星衛星のエウロパや土星衛星のエンセラダス,冥王星などの氷天体では地下海の存在が予想されています.しかし,それらの地球外天体において生命活動を調査することは極めて困難です.そこには二つの理由があります.一つは太陽のような明るい恒星の周りにある極めて暗い地球のような惑星を観測することの難しさや,太陽系天体での生命は局所的な可能性があるために惑星探査においてもその場で直接観測することの難しさがあるからです.もう一つは,太陽系外惑星は点として観測されるために得られる情報が極めて限定的であることです.これまで可視光における反射光や赤外線における熱放射光に含まれる吸収線のガスの組成から表層の生命活動を特定することが試みられてきました.私たちは,地球と生命の共進化という視点(2項参照)に立って,生命活動によって書き換えられる全球規模の地球表層の変化を踏まえて,生命活動の指標を構築したいと考えています.そして太陽系の様々な天体においても個々の天体の成り立ちや進化の過程を理解した上で,そこに生命は発生し得るか/し得ないか,を地球生命の視点を基本に考えていきます(3項参照).その検出に関する技術的な課題に対しては,明るい恒星の光を打ち消すコロナグラフや,編隊飛行によって高い空間分解能を獲得する宇宙干渉計SEIRIOS,太陽系天体における生命の可能性を調べる木星圏探査機JUICEやタイタン着陸ドローンDragonfly,紫外宇宙望遠鏡LAPYUTAなどの開発や運用にも取り組んでいます(4項参照).(2)地球と生命の共進化過程
(左)地球と光合成生物の40億年にわたる共進化の歴史. 光合成生物の酸化によって緑に変わった太古代の海と現代の青い海を基調とした地球のイメージ図.(右)太古代の環境に似た九州の薩南諸島硫黄島の周辺海域の緑の海(京都大学、東京大学、国立天文台、東北大学、東京科学大学、龍谷大学、NASAエイムズリサーチセンターとの共同研究).
(3)太陽系天体の形成と進化過程
木星衛星エウロパ(左)・ガニメデ(中)・カリスト(右)の表面画像(上)と内部構造想像図(下)。同じ木星衛星でも表面の様相は大きく異なります.それらの内部も,中心の金属核とそれを覆う岩石マントル,氷層の氷・液体水層(地下海)の有無や大きさが様々に異なります.こうした違いが,いつどのように,なぜ作られたのかを知るために,太陽系のあらゆる天体を対象に理論計算や望遠鏡観測を通して研究します.
(4)宇宙生命探査や系外惑星観測に向けた機器開発
(左)宇宙生命探査プログラムLIFE.(右)2031年打ち上げ予定の世界初の編隊飛行宇宙干渉計 SEIRIOS(東京大学、JAXA、オーストラリア国立大学、NASAジェット推進研究所、チューリッヒ工科大学との共同研究)
ソフトマター地球惑星科学グループ(桂木研究室)
- 研究テーマ
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物質の流動や固化、自己組織化等の複雑な絡み合いにより地球惑星の表層で生起する多彩で複雑な現象の理解を目指します。具体的には、太陽系天体の表面地形から地球表層環境で起こる動的物理化学過程、生命の起源と進化に至るまでの様々な現象の解明に取り組みます。また、これらの複雑な現象に潜む普遍性を紡ぎ出し、一般的な自然科学法則を明らかにすることも目標とします。
1)粉体を中心としたソフトマター物理とその地球惑星科学的応用
2)生命現象と生体分子の物理学的解析
3)岩石・鉱物の物理化学的性質と地球ダイナミクス(地震発生・地殻変動)
4)ソフトマターを対象とする高精度物理計測法の理論的・実験的研究
5)流体および混相系のソフトマター物理とその自然現象への応用